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お金記事 No.169

実質賃金はプラスに転じた。なのに物価高の実感が消えない理由|950円のランチが1,650円になるまで

📌 この記事でわかること

実質賃金は2026年1月から7か月連続プラス。物価の上昇率も鈍化しています。それでも生活が楽になった感じがしないのはなぜか。総務省・厚生労働省のデータと、通っていた喫茶店の値段の記録から考えます。

※本記事にはプロモーションを含みます。

数字の上では、事態は良くなっています。

実質賃金は2026年1月から7か月連続でプラス。 直近の7月は前年同月比プラス2.4%です。物価の上昇率のほうも、1年前の3%台から1%台へ落ち着いてきました。

つまり、賃金の伸びが物価の伸びを上回っている状態が、半年以上続いている。

それでも私は、生活が楽になった気がしません。

この記事では、その「ズレ」がどこから来るのかを、総務省と厚生労働省のデータで確かめます。そのうえで、私が10年近く通った喫茶店の値段の記録を出します。ズレの正体は、そこにいちばんはっきり出ていました。


まず、数字がどれだけ良くなっているか

厚生労働省の毎月勤労統計から、実質賃金(現金給与総額を消費者物価指数で割ったもの)の前年同月比を並べます。

時期 実質賃金
2022年 −1.0%
2023年 −2.5%
2024年 −0.3%
2025年 −1.3%
2025年12月 −0.1%
2026年1月 +0.7%
2026年4月 +2.0%
2026年6月 +2.2%
2026年7月 +2.4%

4年近くマイナスが続いたあと、2026年に入って明確に転じました。

2026年7月の中身はこうです。現金給与総額が436,401円で前年同月比プラス4.7%。物価の上昇が2.2%。差し引きでプラス2.4%。

物価そのものも落ち着いてきています。総務省の消費者物価指数(総合)は、2025年10月にプラス3.0%だったものが、**2026年8月はプラス1.9%**です。

賃金は上がった。物価の伸びは鈍った。教科書どおりなら、生活は楽になっているはずです。


950円だったパスタセットが、1,650円になるまで

ここから自分の話をします。

平日の昼に、たまに通う喫茶店があります。パスタセットを頼むと、パスタとパンとサラダ、それにコーヒーが付いてきます。ここのブレンドコーヒーが絶品で、コロナ前は週に1回のペースで通っていました。

当時の値段は950円でした。この内容でこの値段なら、という納得感がありました。

そこから、こうなりました。

値段 上げ幅
コロナ前 950円
1,150円 +200円
1,350円 +200円
1,550円 +200円
現在 1,650円 +100円

950円が1,650円。6年ほどで73.7%の値上がりです。

正直に書くと、1,500円を超えたあたりで、満足度が落ちました。

味は何も変わっていません。コーヒーは今でも絶品です。店の人も変わらず感じがいい。変わったのは値段だけです。それでも、払うときの気持ちが違ってしまった。

通う回数はこう変わりました。

  • コロナ前 …… 週に1回
  • 途中 …… 2週に1回
  • いま …… 月に1〜2回

年間に直すと、52回が18回になった計算です。約3分の1。

念のため書いておくと、これは「買うのをやめた」ではありません。買う回数が減った、が正確です。やめたいわけではない。今でもあのコーヒーは飲みたいのです。ただ、値段と釣り合わなくなった。


統計と並べてみると

では、この店の値上がりは特別だったのか。総務省の消費者物価指数と並べてみます。

2020年を100としたときの、2026年3月時点の水準です。

項目 指数 6年間で
総合 112.7 +12.7%
外食 119.4 +19.4%
食料 128.7 +28.7%
穀類 149.5 +49.5%
菓子類 139.6 +39.6%
住居 104.6 +4.6%
交通・通信 101.5 +1.5%
教育 95.9 −4.1%

外食は全体で19.4%の値上がり。私の店は73.7%。約3.8倍の上がり方でした。

この差が、ひとつめの答えです。

統計は平均です。でも私たちが払うのは、平均ではなく、自分が行く店の値段です。 外食が2割上がったと言われても、自分がいちばん好きな店が7割上がっていたら、体感は7割のほうになります。


「上昇率が下がった」は「値段が下がった」ではない

ふたつめの答えは、もっと単純です。

ニュースで報じられるのは、たいてい上昇率です。「3.0%から1.9%に鈍化しました」という言い方をします。

でも家計が払うのは水準です。

上の表をもう一度見てください。食料の指数は128.7。上昇率が3%に落ちようが1%に落ちようが、128.7という水準は下がりません。 そこからさらに積み上がっていくだけです。

私のパスタセットも同じです。1,650円は、もう950円には戻りません。 これから値上げのペースが落ちたとしても、1,650円が起点になります。

「物価が落ち着いてきた」という報道と、「高いままだ」という実感。どちらも正しくて、見ているものが違うだけでした。


「総合1.9%」という数字が薄まる仕組み

みっつめの答えは、指数の作られ方にあります。

直近の2026年8月を見ると、総合はプラス1.9%ですが、中身はかなり違います。

  • 食料 +3.1%
  • 生鮮食品 +6.0%
  • 住居 +1.0%
  • 光熱・水道 −0.3%
  • 教育 −3.8%

品目まで下りると、もっとはっきりします。キャベツ +45.0%、緑茶 +31.5%、まぐろ +24.4%、すし(外食)+11.2%、洗濯用洗剤 +10.9%、ポテトチップス +10.6%。

一方で、指数を押し下げているものもあります。いちばん大きいのが**高等学校授業料(私立)の−73.2%**です。無償化の制度によるものです。

ここが大事なところなのですが——この仕組みは、対象になる家庭には本当に大きい。 ただ、対象でない家庭の生活費は1円も変わりません。それでも指数は下がる

つまり「総合1.9%」という数字は、毎日買うもの(食料)と、めったに動かないもの(住居・通信)と、政策で下がったもの(教育)を全部混ぜた平均です。

毎日買うものほど上がっていて、それ以外が全体を薄めている。 実感が数字より重いのは、当たり前でした。


私がやめたのは、値段を比べることでした

ここからは、自分の行動の話です。

この数年で、はっきり変わったことがあります。安い店を探さなくなりました。

以前なら「あっちのほうが安いな」と比べていた場面で、比べなくなった。理由は単純で、**「どこも上がっているんだから、探しても同じだろう」**と思うようになったからです。

これは私だけの話ではないようです。

物価の研究では、値上げが通るかどうかを決めているのは、企業のコストよりも消費者の「予想」だという見方があります。「どこも上がっている」と消費者が思った瞬間、店を変える人が減る。企業はそれを確認して、次の値上げに踏み切れる。

つまり私は、値上げが通りやすい環境を作っている側にいます。

誰かを責める話ではありません。一人ひとりの「探すのをやめよう」は、疲れるからやめただけの、ごく自然な判断です。ただ、それが積み重なると、値上げが通る土壌になる。

昨日、新NISAの積立が円安の一因になっている、という記事を書きました。あれと同じ形です。

新NISAの積立は円安の一因なのか|財務省データで調べたら、私自身がその中にいた

一人ひとりの合理的な判断が、合計すると別の結果を生む。 物価でも、為替でも、構造は同じでした。


家計簿には「節約できた」と出てしまう

ここが、いちばん書いておきたいところです。

私のパスタセットの支出を、年単位で計算してみます。

単価 回数 年間
コロナ前 950円 52回 49,400円
いま 1,650円 18回 29,700円

単価は1.74倍になったのに、年間の支出は約4割減りました。

もし家計簿だけを見ていたら、これは「外食費を節約できた」と記録されます。数字の上では、支出は確かに減っている。

でも実際に起きたことは、節約ではありません。好きなものを、我慢しているだけです。

そして、店の側から見れば、この客からの売上は4割減っています。値上げは通ったけれど、売上は落ちた。

消費者物価指数は「価格」を測ります。家計調査は「支出額」を測ります。でも、どちらも「諦め」は測りません。

実質賃金がプラスに転じても実感が戻らないのは、たぶんここです。数字が良くなる前に、私たちはもう生活のかたちを変えてしまった。 週1回だったものが月1回になった状態が、いまの「普通」になっている。賃金が2%上がったくらいでは、そこは戻りません。


先に書いておくべきこと:私は影響を受けにくい側です

ここまで書いておいて何ですが、私は物価高の影響を受けにくい側にいます。

我が家は共働きで、世帯の手取りは月48万円ほど。食費は月7万円です。

仮に食費が1割上がっても、増えるのは7,000円。手取りに対して1.5%です。痛くないとは言いませんが、生活が壊れる額ではありません。私が減らしたのは、生活必需品ではなく週1回の楽しみのほうでした。

ここが、統計のいちばん大事な読みどころだと思っています。

食費が家計に占める割合が高い家庭ほど、同じ「食料+3.1%」が重くのしかかります。 必需品の比率が高いと、「買わない」という選択肢が取れないからです。キャベツが45%上がっても、野菜をゼロにはできません。

同じ国に住んでいても、感じているインフレ率は人によって違います。 私の体感と、そうでない方の体感を、同じものとして語るつもりはありません。


それで、どうするか

正直なところ、食費のような変動費については、うまい手を私は持っていません。 我慢するか、質を落とすか、その二つしかない。だから私も回数を減らしました。

ただ、ひとつだけ言えることがあります。

変動費の我慢は毎回しんどいけれど、固定費は一度やれば終わります。

私は数年前に固定費を見直して、年間で40万円ほど減らしました。通信費、保険、使っていないサブスク。あのときの1回の作業が、いまも毎月効いています。 パスタセットを24回我慢するより、よほど楽でした。

固定費はどこから削る?削減インパクトが大きい順ランキング

物価が上がっている局面では、「毎月の我慢」より「一度の見直し」のほうが、費用対効果が高いと思っています。


まとめ

数字と実感がズレる理由は、3つありました。

① 統計は平均 外食全体は+19.4%。でも私の店は+73.7%。払うのは平均ではなく、自分の店の値段
② 率と水準は違う 上昇率が鈍っても、食料の水準は2020年比+28.7%のまま。1,650円は950円に戻らない
③ 平均が薄められている 毎日買う食料は+3.1%。一方で教育は−3.8%(高校授業料の無償化)。全部混ぜた平均が「+1.9%」

そして、統計に出てこないものがもうひとつありました。諦めです。

週1回が月1回になった。支出は減ったので、家計簿の上では改善に見える。でも失われたのは、週に1度、絶品のコーヒーを飲む時間でした。


最後に、ひとつだけ。

あなたにとっての「1,500円」は、何ですか。

値段を見て、行く回数が減ったもの。買う頻度が落ちたもの。それが自分にとって何なのかを言葉にしておくと、節約したのか、我慢したのかを、自分で区別できるようになります。

私は今日、それが「週1回のパスタセット」だったと気づきました。減らしたのは支出ではなく、楽しみのほうだった。

気づいたからといって値段が戻るわけではありません。でも、自分が何を手放したのかを知っているかどうかは、たぶん違うと思っています。


出典

  • 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年7月分結果速報」(2026年9月8日公表)
  • 総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年8月分」(2026年9月18日公表)
  • 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年3月分及び2025年度平均」(2026年4月24日公表)

※統計の数値はいずれも2026年9月20日時点で確認したものです。速報値は確報で改定される場合があります。喫茶店の価格は筆者の記録によるものです。


※本記事は筆者個人の見解に基づく一般的な解説です。特定の商品・サービスを推奨するものではありません。 物価や賃金の先行きを予測するものではなく、記載した数値は公表済みの統計および筆者の記録に基づく事実です。 制度の詳細は変更となる場合があります。最新情報は公的機関でご確認ください。

この記事を書いた人

マネーコンパス(52歳・会社員)

43歳・貯金ゼロから資産形成を始め、9年で資産4,900万円・不労所得は月6.6万円に。 新NISA・配当株・固定費削減を、すべて自分の実体験にもとづいて発信しています。

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