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2026年9月18日、日本銀行は政策金利を1.25%程度に引き上げました。
金利が上がれば、円は買われやすくなる。教科書どおりなら円高です。
ところが日本銀行が公表している東京市場の17時のレートは、前日の155.69円から、この日は157.49円へ。円は安くなりました。
ニュースは「なぜ利上げしたのに円安なのか」「次は152円か158円か」を追いかけます。私も最初はそうでした。
でも、データを並べているうちに、もっと大きな問いがあることに気づきました。
そもそも、なぜ110円台に戻らなくなったのか。
前回の記事「新NISAの積立は円安の一因なのか」では、私自身の積立が円を売る側にいることを書きました。今回はその続きです。この記事では、為替を 「上下」と「範囲」に分けて見る という考え方を、公表データで確かめます。
「上下」と「範囲」は、別のもの
まず、ドル円の年平均を並べます。日本銀行の「東京市場 ドル・円 スポット 17時時点」の月中平均を、暦年で平均したものです。
| 年 | 年平均(円/ドル) |
|---|---|
| 2013年 | 97.60 |
| 2014年 | 105.84 |
| 2015年 | 121.02 |
| 2016年 | 108.84 |
| 2017年 | 112.16 |
| 2018年 | 110.40 |
| 2019年 | 109.01 |
| 2020年 | 106.78 |
| 2021年 | 109.78 |
| 2022年 | 131.37 |
| 2023年 | 140.51 |
| 2024年 | 151.50 |
| 2025年 | 149.65 |
| 2026年(1〜8月) | 158.78 |
2013年から2021年までの9年間は、2015年を除いて年平均がおおむね100〜110円台に収まっていました。
それが2022年に130円台へ、2024年以降は150円台へ。一段ずつ、階段を上がるように動いています。
月の平均で見ると、もっとはっきりします。
- 2022年3月(118.54円)を最後に、月平均が120円を下回った月は一度もありません
- 2023年以降でもっとも円高だった月でも、130.28円(2023年1月)
- 2026年は1月から8月まで、155〜162円の間で推移しています
ここで2つを分けて考えます。
- 上下=範囲の中での動き。金利の発表、為替介入、ニュースで、数円〜十数円動く
- 範囲=上下が起きる「土台」の高さ。2013〜2021年は100〜110円台、いまは140〜160円台
ニュースが追いかけているのは、ほとんどが「上下」です。152円か158円か、という話です。
でも資産を持っている側にとって大きいのは、たぶん「範囲」のほうです。範囲が動くと、上下とは桁の違う金額が動くからです(後で私の数字で計算します)。
この「上下と範囲を分ける」見方は、みずほ銀行の唐鎌大輔さんが経済番組(文藝春秋PLUS)で話していた内容がきっかけです。唐鎌さんは「152円か158円かではなく、なぜ110円に戻れないのかを問うべきだ」という趣旨のことを話していました。ここからは、その論点を自分で公表データに当たって確かめた結果です。
範囲を押し上げているもの——「外へ払い続けて、減らない支払い」
唐鎌さんがいちばん怖いと言っていたのは、金融政策ではありませんでした。
値段が上がっても、払う量をなかなか減らせない、外国への支払いです。
円安で輸入品が高くなれば、ふつうは買う量が減って、支払いも落ち着くはずです。ところが、減らせない支払いがある。そうなると、円が安くなるほど外へ払う円が増え、それがまた円を売る力になります。
私が公表データで確かめられたのは、次の2つです。
原油:買う先が変わり、運ぶ距離が延びた
資源エネルギー庁の「石油統計速報」によると、日本が輸入する原油のうち中東から来る割合(中東依存度)は、次のように変わりました。
| 時点 | 中東依存度 | 米国からの輸入 |
|---|---|---|
| 2025年8月 | 95.8% | ― |
| 2026年8月 | 60.7% | 416万kl(全体の約34%) |
2026年3月下旬からホルムズ海峡が事実上通れなくなり、政府は3月と4月に国家備蓄を放出しました。その後、日本は米国などから原油を買うようになっています。
量は確保できました。でも、遠くから運ぶぶん、値段は高くなります。
財務省の貿易統計では、2026年8月の貿易収支は1兆1,056億円の赤字で、4か月連続の赤字。輸入のうち原粗油は前年同月比58.7%増でした。
唐鎌さんは、もうひとつ気になることを話していました。中東からなら約22日で届いた原油が、米国からだと約50日かかる。そのため原油価格の変化が貿易収支に表れるまでの遅れが、2か月から3〜3.5か月に延びる、という試算です(唐鎌さんご本人の試算で、私が確かめた数字ではありません)。
もしこの見方が正しければ、明日原油が値下がりしても、しばらくは高い原油の支払いが続くことになります。
デジタル:使うほど、外へ払う
もうひとつは「デジタル赤字」です。スマホのアプリ、クラウド、ネット広告、動画や音楽の定額サービス。日本人が海外のIT企業に払っている金額から、受け取っている金額を引いたものです。
国際収支統計のデジタル関連の項目を合計すると、
- 2024年:約6.6兆円の赤字
- 2025年:約6.7兆円の赤字
2025年1〜6月の赤字は、10年前の同じ時期の約2.6倍という集計もあります。
これは、私たちが毎日使っているものです。値上がりしても、仕事でも生活でも、使うのをやめるのは簡単ではありません。「減らない支払い」の典型だと思います。
貿易赤字だけでは、説明できない
ここで、ひとつ正直に書いておきます。
貿易赤字が大きいから範囲が上がった、とは単純には言えません。
財務省の貿易統計(通関ベース)では、2013年は約11.5兆円、2014年は約12.8兆円の貿易赤字でした。いまより大きな赤字です。それでも当時のドル円は、年平均で97〜106円でした。
逆に、2025年度は国際収支ベースで5年ぶりの貿易黒字になり、経常収支の黒字は過去最大の34.5兆円でした。それでも円は安いままです。
数字の上では黒字なのに、なぜ円が買われないのか。理由のひとつは、海外で稼いだお金が、円に戻ってこないことだと言われています。海外の子会社が稼いだ利益は、そのまま海外で再投資されることが多いからです。
そして、もうひとつが、前回の記事で書いた個人の海外投資です。投資信託を通じた海外への投資は、2024年に年10兆円を超えました。その中に、毎月12万円を積み立てている私もいます。
つまり「範囲」を押し上げているのは、ひとつの原因ではありません。
- 原油のように、値上がりしても減らせない輸入
- デジタルのように、使うほど増える外への支払い
- 海外で稼いでも円に戻ってこないお金
- 私たちの積立のように、円から外へ出ていくお金
どれも、ニュースの一日では変わらないものです。だから範囲は、簡単には下がらない。私はそう理解しました。
それでも、円高に振れることはある
ここまで読むと「円安はずっと続く」と思われるかもしれません。でも、それは違います。
唐鎌さんは同じ番組の前編で、日本とアメリカの「実質金利」(金利から物価上昇率を引いたもの)の差は、すでにほぼなくなっているとも話していました。その見方に立てば、いまの円安は行き過ぎで、円高に振れる力もあることになります。
実際、日本の政策金利は1.25%、アメリカは3.75〜4.00%(2026年9月時点)。名目の差はまだ2.5〜2.75ポイントありますが、日本でも金利が上がり始めています。
2026年に入ってからも、政府は判明しているだけで約27兆円の円買い介入をしています。9月の17時のレートも、1日の159.99円から9日の153.12円まで、ひと月で7円近く動きました。
「範囲が上がった」ことと「範囲の中では円高にも動く」ことは、矛盾しません。上下は両方向に動く。範囲そのものは、なかなか戻らない。私はこう整理しています。
ちなみに、円高が株の暴落と重なったリーマン・ショックのとき、世界の株式は円で見て高値から約63%下がりました。その下落を私の資産に当てはめた計算は、「リーマン級の暴落が来たら、私の4,900万円はいくらになるか」に書きました。
外貨45%の私が、この見方で計算してみたこと
ここからは自分の話です。
私(52歳・会社員)の資産は約4,900万円。そのうち外貨建ては約2,200万円、全体の約45%です(内訳は前回の記事に書きました)。
この2,200万円が為替でどれだけ動くかを、「上下」と「範囲」に分けて計算してみました。いまのレートを約157円(2026年9月30日の17時は156.91円)として、中身の株価は変わらないと仮定した単純な計算です。
| 想定 | 円換算の外貨建て資産 | いまとの差 |
|---|---|---|
| いま(約157円) | 約2,200万円 | ― |
| 上下:10円の円高(約147円) | 約2,060万円 | 約−140万円 |
| 上下:10円の円安(約167円) | 約2,340万円 | 約+140万円 |
| 範囲:2013〜2021年の水準(約110円) | 約1,540万円 | 約−660万円 |
「上下」なら、10円動いても約140万円。大きい金額ですが、範囲の中で行ったり来たりする動きです。
「範囲」が昔に戻ると、約660万円。桁がひとつ違います。
これは予想ではありません。「範囲が戻る」とも「戻らない」とも、私には言えません。ただ、自分の資産がどちらの動きにどれだけさらされているかを、金額で知っておきたかったのです。
計算してみて、自分の中で2つのことがはっきりしました。
ひとつは、毎日のレートを見て一喜一憂しても、あまり意味がないこと。上下はどちらにも動きます。10円で140万円という数字を知ったうえで、それでも続けられる配分かどうか。見るべきはそこでした。
もうひとつは、外貨45%という比率を、年に1回は確かめること。範囲が動くような変化は、ゆっくり起きます。毎日見る必要はないけれど、何年も見ないと、気づいたときには比率が大きくずれています。私は8年間、一度も資産の比率を見直していませんでした。
積立はやめません。理由は前回書いたとおりで、日本の資産だけ、円だけに置いておくことも、それ自体がひとつの賭けだからです。
一方で、私の資産には現金約500万円もあります。こちらは円建てなので、範囲が上がった世界では目減りする側です。円の置き場所については50代の現金保有率の目安と、50代の債券の考え方に書いています。
まとめ
| 調べたこと | 結果 |
|---|---|
| 2013〜2021年のドル円 | 年平均でおおむね100〜110円台(2015年のみ121円) |
| 2022年以降 | 2022年4月から月平均で一度も120円を下回っていない。2026年1〜8月は155〜162円 |
| 原油の中東依存度 | 2025年8月95.8% → 2026年8月60.7%(米国からが約34%) |
| 貿易収支(2026年8月) | 1兆1,056億円の赤字(4か月連続)。原粗油の輸入は58.7%増 |
| デジタル赤字 | 2025年約6.7兆円 |
| ただし | 2013〜2014年はいまより大きな貿易赤字でも100円前後。原因はひとつではない |
| 私の外貨建て資産(約2,200万円) | 10円の上下で約±140万円/範囲が110円に戻れば約−660万円(計算上) |
為替のニュースを見たら、「これは上下の話か、範囲の話か」と一度だけ考えてみてください。
ほとんどは上下の話です。そして上下は、どちらにも動きます。
範囲の話は、ニュースになりにくい。原油をどこから買うか、どれだけ海外のサービスを使うか、稼いだお金をどこに置くか。何年もかけて少しずつ変わります。
自分の外貨比率と、10円動いたときの金額。この2つを一度計算しておくと、為替のニュースの聞こえ方が変わります。私はそうでした。
出典
- 日本銀行「時系列統計データ(東京市場 ドル・円 スポット 17時時点/月中平均・日次)」2026年10月4日取得
- 財務省「貿易統計(2026年8月分 速報)」2026年9月16日公表/「年別輸出入総額(確定値)」
- 資源エネルギー庁「石油統計速報(2026年8月分)」2026年9月30日公表
- 財務省・日本銀行「国際収支統計」(デジタル関連収支は、三菱総合研究所・日本経済新聞の集計による)
- 日本銀行「当面の金融政策運営について」2026年9月18日/米連邦準備制度理事会(FRB)2026年9月16日の声明
- 財務省「外国為替平衡操作の実施状況」
- 唐鎌大輔さん(みずほ銀行)の見方は、経済番組「文藝春秋PLUS」での発言を筆者が要約したものです
※本記事のデータはいずれも2026年10月4日時点で確認したものです。統計は後日改定されることがあります。
※本記事は筆者個人の見解に基づく一般的な解説です。特定の商品・投資行動を推奨するものではありません。 為替相場や市場の先行きについて予測するものではなく、記載した数値は過去の公表データに基づく事実および概算です。 投資は元本を割り込む可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。 税制・制度の詳細は変更となる場合があります。最新情報は金融機関・公的機関でご確認ください。